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・・・高断熱高気密・・・

高断熱高気密の住宅を作るためのノウハウについて、建築業界では各設計事務所・工務店・建材メーカー等によって日々さまざまなアイデアが生み出されています。
それらの情報や建築現場での経験をもとに、高断熱高気密住宅の概要と注意点をまとめてみました。


【高断熱・高気密住宅の概要】

年間を通して建物内部の温度を一定に保つことで、快適な生活を送ることを目的とします。具体的には建物の外周を断熱材と気密材(ビニールシート)ですっぽり覆うことで外気を遮断し、エアコンや換気扇で建物内の空気環境を調整しやすいものとします。断熱材で冬は室内の熱が逃げないように、夏は外部の熱が室内に侵入しないように、気密材で外部と内部の空気の侵入・流出を遮断します。
高断熱・高気密概略図
断熱の工法としては、充填断熱充填断熱+付加断熱(外部・内部)などがあり、現在は充填断熱、外部付加断熱が主流です。付加断熱とは、建物の構造体の外側または内側に断熱材を増し貼りするものを言います。以下は壁を水平に切った各工法の参考平面図です。
断熱工法
上の図は壁についてのものですが、基礎・床・屋根・天井・開口部などの部位についても各々幾通りかの断熱方法があり、目標とする性能値や予算などを考慮して最善の方法を選択していきます。

【どの程度の性能を目指すのか】

一般的に、断熱性能を示す値としてUA値またはQ値(旧基準)、気密性についてはC値、また夏期日射に対してはηA(イータ・エー)値またはμ(ミュー)値(旧基準)などが用いられます。
  • ・UA値=熱還流率

    建物を構成する部材の熱の通りやすさ。数値が低いほど性能が良い。
    壁や屋根などの部位ごとに、その部位を構成する部材の種類・組み合わせ・面積・方位などで変化します。
  • ・Q値=熱損失係数(旧基準)

    建物全体から逃げる熱量の割合。数値が低いほど性能が良い。
    U値が部材そのものの熱の伝わりやすさを示すのに対して、Q値は部材を通り抜けた熱量を示します。UA値と同様に部材の構成内容で数値が変化します。
    断熱性能を検討する場合、換気による熱損失を考慮するなど実際的な結果を得られるためQ値を使用する場合が多いです
  • ・C値=気密性能値

    建物全体に対して隙間がどれほどあるかを示す数値。数値が低いほど性能が良い。
  • ・ηA値=外皮平均日射熱取得率

    窓から直接入る日射の熱と、建物の部材を通して侵入する熱の割合。数値が低いほど性能が良い。
  • ・μ値=夏期日射取得係数(旧基準)

    夏期における日射の入りやすさ。数値が低いほど性能が良い。

メモ:Q値をUA値に換算する式 Ua ≒ 0.37Q ー 0.13(近畿大学岩前教授)

・断熱性能の目標
平成28年省エネ基準では最も寒い地域を1地域(基準UA値0.46W/m2K)として最も温かい地域の8地域(基準UA値基準なし)まで区分けして断熱性能の基準を設けています。 (平成28年省エネ基準 地域区分
関東はおおむねの地域が地域区分5か6に該当し、基準UA値は0.87W/m2K(区分5~7は全て同じ)(旧基準ではQ値2.7)で、この基準を満たすことは充填断熱だけでも可能です。しかし、より断熱性能を高め(関東では)Q値1.5未満(UA値0.425程度未満)とすることで年間の冷暖房エネルギー消費を半分以下とすることが可能です。そのため断熱性能の目標としてQ値1.5未満とすることが理想的です。しかし関東でもQ値を1.5未満にするには外壁の付加断熱がどうしても必要になります。施工の手間やコストを考えると付加断熱なしで目標値を達成したいところですが、現在のところ課題となっています。
※ここ数年サッシやガラスの断熱性能が向上ていることにより、窓の配置等プランを工夫することでQ値1.5未満も実現可能となってきました。(2018.10.16追記)

・気密性能の目標
空調の効率性を高める、つまりなるべくエアコンを稼働させないですませるためには、気密性を高めることが非常に重要です。どれだけ断熱材の性能を良くしても、室内の空気が外に漏れたり、外の空気が室内に入ってきてしまったりするとその効果は十分に発揮されません。壁内の結露を防止するためにも気密を良くしなければなりません。
次世代省エネ基準(旧基準)では北海道・東北でC値2.0cm2/m2、それ以外の地域でC値5.0cm2/m2とされていました。ところが換気扇と給気口による第3種換気ではC値5.0で80%、C値2.0で75%もの外気が給気口以外の隙間から入り込むことになるのです。
高気密住宅の目標C値は1.0cm2/m2とされていて、これは新築の鉄筋コンクリート造マンション程度の数値で、外気の流入は50%程度となります。さらにC値0.6cm2/m2まで気密精度を高めると外気の流入は40%程度に抑えることができます。

・日射取得について
日射熱を多く取り込むことは暖房効率を良くするために有効ですが、反面夏期の冷房効率は悪くなります。そのため計画段階で、窓の方位や大きさ、庇の出の寸法など詳細に検討することが大切です。

【高断熱・高気密住宅のメリット】

  • ・年間を通して室内を一定の気温に保つことができて快適。
  • ・エアコンの稼働率を抑えることができて経済的。
  • ・床下エアコンで全館暖房するなどの工夫でエアコンの設置台数を減らすことができ経済的。
  • ・全館暖房することで居室とトイレなど温度差が少なくなりヒートショックなどの事故を防ぐことができる。
  • ・1階と2階の温度差が少なくなる。
  • ・省令準耐火仕様と重複する工法が多々あるため、容易に準耐火仕様とすることができる。
     (主に一部の天井下地石膏ボードの使用変更が追加となるだけ)
     ※省令準耐火仕様とすすることで火災保険料を50%以上節約することができます。
     (2018.10.16追記)

【高断熱・高気密住宅のデメリット】

  • ・工事作業量が多く手順も複雑なため工期が長くなる。(外部付加断熱の工程は雨による影響が大きい)
  • ・内部付加断熱とした場合、工期の短縮は望めるが、部屋の有効面積が狭くなる。
  • ・材料や手間が増えるため、初期費用がかかる。
  • ・ファンヒーター等の燃焼型のストーブを使う場合、直接屋外に排気できるFF式とする必要がある。
  • ・床下エアコンの場合はエアコンがきき始めるまでに時間がかかる。

上記メリットを生かしつつ、デメリットによる負担をいかに軽減するかが工夫のしどころです。

【高断熱・高気密住宅の注意点】

  • ・建物は東西に細長く。
    これは断熱住宅に限らず昔から言われている建築計画の基本です。吉田兼好の「夏をもって旨とすべし」に則って、南北に風が抜けやすいよう建物を東西に細長く配置するのが理想とされてきました。
    これは断熱住宅においても非常に有効です。東西の壁やサッシからの熱損失は比較的大きいので、この面積を少なくすることは断熱に対して有効です。また南面のサッシの面積を増やすことで、冬場に日射熱をたくさん得ることも有効です。(夏に日射を取り込まないよう庇を設けるなどの対策は必要です)
    これから土地を探される方は、東西に細長く家を配置出来て、南側に庭ができるくらいの余裕がある土地を見つけられたなら最高です。

  • ・サッシは樹脂サッシまたは樹脂とアルミの複合サッシにLow-E複層ガラスが必須です。
    サッシは建物の中で最も熱損失の大きい部分です。開口部を大きくとることは日射熱を得るのに非常に有効ですが、その分熱の損失も増えます。熱損失を抑えるためには断熱性能の良いサッシやガラスを選択することが不可欠です。最近ではトリプルガラスを使用する事例もふえてきています。
    又、サッシ本体の室内側を樹脂としたり、複層ガラスを使用することで結露を防ぎます。

  • ・室内空気環境の対策についての計画はとても重要です。
    特に換気については熱交換型換気扇の設置を強くお勧めします。熱交換型換気扇とは俗にいうロスナイ換気扇のことで、排出される空気の熱を利用して給気される空気の温度を室内の温度に近づけて取り込む換気扇です。(ちなみにロスナイは三菱電機の登録商標です)
    建築基準法に定められているシックハウス対策のための換気量は、通常トイレに付ける安価なパイプファンで事足りますが、そのための給気は壁に穴をあけただけの給気口から取り入れることになります。シックハウス対策基準では1時間で0.5回、部屋の空気を入れ替えるようになっているので、せっかく温めた(冷やした)部屋の空気が2時間でまるまる外の冷たい(熱い)空気と入れ替えられてしまうのです。これではどんなに壁やサッシで断熱・気密をしても台無しです。120平方メートル(36坪)程度の住宅であれば1台(30~50万円程度)初期費用がかかりますが、エアコン台数を減らした全館冷暖房とすることでランニングコストを抑えることが可能です。
    レンジフードについても通常は排気専用のものを選択されることが多いですが、高断熱・高気密住宅では同時吸排気型のレンジフードを選択することをお勧めします。差額も3万円程度で金額は通常のものとあまり変わりません。
    穴を開けただけの給気口から外気を取り入れる第3種換気は冷暖房費の無駄遣いです。温度調整にかけたお金を換気扇から捨てているようなものです。熱交換換気はいわばキャッシュバックのようなものです。温度調整にかけたお金の一部が給気をするときにいくらか戻ってくると考えていただけると納得いただけるでしょうか。

  • ・冷暖房や換気と共に加湿についても配慮が必要です。
    特に冬季は湿度が低くエアコンを稼働させた室内では常に乾燥した状態になります。風邪をひきやすくなるなど健康にも影響をおよぼすため、加湿器を使うなどして湿度を保ちます。

  • ・床下エアコンとする場合、基礎の配置に注意が必要です。
    エアコンの空気の流れが基礎に邪魔されて温度にムラができることのないように計画します。床下にサーキュレーター(ホームセンターなどで安く購入できるものでよい)などを設置して、まんべんなく空気が循環するよう工夫しているところもあるようです。

    ※床下エアコン周辺の気密をしかっりとして床下の空気圧を高くすると、基礎の配置やエアコンから吹き床ガラリまでの距離などに関係なく、どの床ガラリからも同等の風量が吹き出されるようになります。(2018.10.16変更)
    床下エアコンを設置した状態
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    気密した状態
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  • ・計算通りの断熱性能を確保するには、施工の精度が非常に重要になります。
    設計の時点でどんなに性能の良い設計をしても、正しく施工されていなければ十分な性能を得ることができません。工事には高断熱・高気密についてしっかりした知識のある工事業者を選ぶことが重要です。

  • ・デメリットのところでも書きましたが、建売りのような住宅と比べて大変手間のかかる工事なので十分な工期を見込んでおく必要があります。また大半の方にとっては人生で最も高額の買い物になるので、後悔の無いよう納得のいくまで計画を詰めることのできる期間も必要です。

  • ・断熱性能のランクについては平成28年省エネ基準がひとつの目安となりますが、対費用効果を最大限に得るためにはこの基準を満たすだけでは十分ではありません。高断熱とすることで毎年節約できる冷暖房費を長期的に考え、目標とする性能値を設定することが重要です。

【使用する材料について】

断熱・気密に関する建材はさまざまな種類のものがありますが、それらについて性能・安全性・施工性・価格などを基準に適切なものを選択します。

【目 次】

  

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・・・Q1.0住宅(超省エネ断熱住宅)・・・

【Q1.0(キューワン)住宅とは】

田口建築設計事務所では、Q1.0住宅の設計に取り組んでいます。
Q1.0住宅とは、民間の技術開発団体である一般社団法人 新木造住宅技術研究協議会(通称:新住協)の代表理事である鎌田先生によりますと、「超省エネの高断熱住宅」のことをいいます。
具体的な定義としては、住宅の断熱性を強化し気密性を良くすることで、年間を通して暖房に必要な費用を(省エネ基準程度の断熱性の住宅と比べて)半分以下に抑えることができる住宅とされています。北海道の高断熱住宅(次世代省エネ住宅程度)の暖房エネルギー消費を、その半分以下にしようとすると、おおむねQ値=1.0前後になるそうで、そこからQ1.0住宅と名付けられたそうです。
現在Q1.0住宅は暖房エネルギー消費量の削減率(次世代省エネ基準との比)によって次のようにレベル分けされています。
50%以下:準Q1.0
40%以下:Q1.0レベル1
30%以下:Q1.0レベル2
20%以下:Q1.0レベル3
10%以下:Q1.0レベル4
理想としてはレベル2以上を目指したいのですが、今のところ関東地方においても外壁の付加断熱なしでは、ぎりぎりレベル1を達成できるかというところです。

【Q1.0住宅と次世代省エネ基準の違い】

Q1.0住宅の設計にあたって、断熱計算は新住協から提供されているエクセルのソフト「QPEX」を使用します。QPEXでは次世代省エネ基準では考慮されていない、熱交換換気を採用した場合の消費エネルギー削減を検討することができます。
またサッシやガラスの熱貫流率(U値)についても、省エネ基準では材質によって一律に設定されていますが、QPEXでは各メーカーの各製品ごと実際の数値を用いて細かく設定された数値を使用して検討することができます。
このようにQ1.0住宅は実際の計画に則して、建物全体の熱損失と損失した熱を補うために必要なエネルギーの値を用いて省エネレベルを判断するので、住宅の断熱性能を検討するためには非常に信頼度の高い判断基準だと思います。

【高断熱住宅の換気について(Q1.0住宅に限らず)】

換気による熱損失は非常におおきいため、高断熱住宅を考える上で第1種の熱交換換気はぜひ採用していただきたいです。120平方メートル(36坪)程度の住宅であれば換気設備1台分(30~50万円程度)初期費用がかかりますが、エアコン台数を減らした全館冷暖房とすることでランニングコストを抑えることが可能です。またキッチンのレンジフードからの熱損失もばかにできません。ぜひとも同時吸排気型のレンジフードをお勧めします。差額も3万円程度で金額は通常のものとあまり変わりません。
穴を開けただけの給気口から外気を取り入れる第3種換気は冷暖房費の無駄遣いです。温度調整にかけたお金を換気扇から捨てているようなものです。熱交換換気はいわばキャッシュバックのようなものです。温度調整にかけたお金の一部が給気をするときにいくらか戻ってくると考えていただけると納得いただけるでしょうか。

【目 次】

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・・・耐 震・・・

【構造計画が大事】

これまで大きな震災があるたびに、法改正などによって建物の耐震性強化が図(はか)られてきました。木造住宅においても必要な耐震壁の量や構造部材(柱、梁、筋交い等)の接合方法などが明確化されてきています。しかしながら建築基準法の構造規定を満たすだけでは不十分です。住宅性能評価などでも建築基準法以上の性能基準が定められていますが、ただやみくもにそれらの要件を満たすだけでは良い設計とは言えません。
設計の初期の段階でしっかりとした構造計画を立てることによって、構造的にバランスが良く自由な間取りとすることが容易になります。
また建築基準法では、建物の振動について現在のところ特に具体的な規定はありませんが、大型車両が頻繁に通る道路に隣接した敷地などでは震度1程度の揺れが日常的に生じる場合があり建物の寿命にも影響します。この場合は地盤改良や建物を重くして振動を抑えるなどの対策を検討する必要があります。

【耐震等級について】

住宅性能表示制度では耐震性能について、耐震等級を3段階に設定してその性能を評価しています。(耐震等級の数値が大きいほど耐震性に優れている)大地震・中地震に対してどの程度耐え得るものとするかで耐震等級が決まります。
大地震とは:数百年に1度程度発生する地震。東京の場合、およそ震度6弱(旧震度6)から震度6強(旧震度7)程度に相当する。
中地震とは:数十年に1度程度発生する地震。東京の場合、およそ震度5強程度に相当する。

◆耐震等級1◆

大地震に対して倒壊しない程度。
中地震に対して損傷しない程度。

◆耐震等級2◆

大地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.25倍の力に対して倒壊や崩壊などしない程度。
中地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.25倍の力に対して損傷しない程度。

◆耐震等級3◆

大地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.5倍の力に対して倒壊や崩壊などしない程度。
中地震に対して、等級1で耐えられる地震力の1.5倍の力に対して損傷しない程度。
建築基準法の要件を最低限満たすものは耐震等級1に相当します。(厳密には耐震等級1の約0.75倍、下記参照)これは大地震で倒壊する可能性もあり、倒壊こそしなくとも、かなり傾いたり激しく損傷したり、状況によっては余震で倒壊するなど、避難に影響が出たり復旧が不可能な状態になることが想定されます。最低でも耐震等級2、地盤の悪い土地では耐震等級3レベルの耐震性能がほしいところです。さらに大地震においても軽微な損傷で済ませるためには、良好な地盤の土地で耐震等級3、地盤の悪い土地では耐震等級3を超える性能とすることが理想的です。未曽有の災害に耐え、大がかりな補修をすることなく末永く建物を使用することを考えるには、過剰とも思える設計が必要かもしれません。


(以下、2018/2/28㈱インテグラル特別セミナー時の大橋好光先生、山辺豊彦先生の講義を受けて2018/3/2追記)

【建築基準法と性能表示耐震等級1の必要壁量について】

(基準法の必要壁量は2018年現在のものです(1981年に改訂))
性能表示では「耐震等級1=建築基準法による必要壁量を満たす住宅」とされていて、算定によって確認できるのは耐震等級2以上の必要壁量です。また、耐震等級2を満たす為に必要な壁量は、建築基準法による必要壁量×1.25以上とされています。
上記から、耐震等級2の必要壁量を1.25で割り返してあげれば耐震等級1の必要壁量となります。
両者の必要壁量(率)を比較すると、基準法の必要壁量は耐震等級1の約3/4(75%)しかありません。(総2階の場合)
ちなみに性能表示による計算よりもっと現実的な構造計算を行っても、結果はほぼ同じとなるそうです。
地震力は同じ条件なのになぜこのようなことになるのかというと、前提としている建物の重さが違うためなのだそうです。
計算には前提として建物の各部の重さが必要となるのですが、基準法で用いられる値が性能表示や構造計算の値より軽くされているのです。
構造計算は鉄筋コンクリート造や鉄骨造の建物にも用いられるものです。
つまり基準法では「木造住宅は弱くて良い」という設計法になっているのです。

【建築基準法の想定する地震力について】

建築基準法の想定する大地震は加速度でいうと「300~400gal」と言われてきました。
兵庫県南部地震(1995年、阪神・淡路大震災)の揺れは、神戸海洋気象台波(JMA神戸波)で
3成分合成 最大891.0gal
南北方向  最大818.0gal
東西方向  最大617.3gal
上下方向  最大332.2gal
と、基準法の想定する大地震よりもかなり大きかったのです。(基準法の1.2~2倍)
基準法をギリギリに満足するような住宅は、倒壊してもおかしくありませんでした。にもかかわらず、現代の木造住宅は大きな被害を被ることがなかったのです。
これは石膏ボードやサイディング(釘打ち)などの非耐力壁、いわゆる「雑壁」が効いていたためということが分かりました。
熊本地震(2016年)の被害調査では、雑壁がなく基準法をギリギリに満たしている建物は大きな被害を受けていることが分かっています。
現在、品確法では一定の基準を満たした雑壁を「準耐力壁」としています。
また熊本地震では筋交いの圧縮による座屈破壊や引っ張りによる金物付近での割裂が多くみられ、被害を受けた住宅のほとんどがこれによるものでした。
構造用合板でも釘が合板から頭抜けをする事例もあります。ただし合板の場合は、打ち付けられている釘の本数が多いため、数本頭抜けをしても筋交いほど耐力が低下することはありません。

【制振装置について】

現在、筋交いに代わるものとして、油圧ダンパーや高減衰ゴムなどによる様々な住宅用の制振装置が出てきています。これらの最大の長所は繰り返しの揺れにも性能の低下が少ないところです。大地震後も安心して住むために制振装置を導入することは非常に有効的ですが、筋交いや合板などと比べて高価なため、想定する家の寿命などと合わせて検討すると良いです。また製品によって壁倍率が違ったり、限界耐力計算での確認が必要なものもあるので注意が必要です(壁倍率が取れないものもある)。

【どの程度の耐震性能を設定するのか】

現在の基準法に合った壁量があり雑壁による余禄のある住宅であれば、大地震においても完全にぺしゃんこに潰れることはほぼないと言えそうです。となると今度はどの程度の損傷に抑えるかという基準を決めなければいけません。考えられる損傷の度合いは、損傷の大きなものから
1.倒壊寸前までゆがむが、倒壊前になんとか抜け出せる。(要建て替え)
2.かなりゆがむが、余震でも倒壊まで至らない。(要建て替え)
3.ゆがみは少ないが、壁やガラスなどの大部分がひび割れる。(要大規模な修復)
4.ほぼゆがみはない。仕上材のひび割れ程度。(要補修)
5.ゆがみなし。仕上材の微細なひび割れ。(要軽微な補修)

地盤の良し悪しもありますが一般的な軟弱度の地盤(第2種地盤)であれば、程度の差はありますが耐震等級3の住宅で上記4.程度の損傷で済むとされています。一方、基準法ギリギリでは1.~2.です。耐震等級3まで性能を高めるのに必要な費用は数十万円(合板や筋交い、金物による強化)です。地震保険は全壊で満額支払われても同じものは建築できません。
今だに基準法ギリギリの住宅が新築されている現実が信じられません。

【耐久性のバランス】

仮に建物の上部を強化して100年の仕様に耐えられるようにしたとします。しかし基礎が30年しかもたないようでは意味がありません。全体をバランスよく設計することが大切です。
以下は個人的なメモです。(山辺先生の講義より)
基礎の寿命を考えるにあたって、基礎立上り上部の主筋の劣化から考える。
通常、基礎上部の鉄筋に対するコンクリートかぶり厚は30mm。コンクリートは時間と共に表面から中性化が進み、中性化が鉄筋部分にまで達すると、鉄筋がさびてひび割れが発生する。
中性化の進行度は水セメント比でコントロールできる。
耐用年数・強度・養生期間
30年・Fc18・W/C≦65%・5日以上
65年・Fc24・W/C≦55~58%・5日以上
100年・Fc30・W/C≦49~52%・7日以上
200年・Fc36・W/C≦55%・7日以上(かぶり厚10mm増しならFc30)
※水セメント比が重要なので打設時の天候に注意。降雨時すぐに養生できるように準備をしておく。


(ここまで2018/3/2追記)

【これからの木構造住宅】

日本の住宅の寿命は30年程度と言われています。地震や火災、高温多湿な気候による木材の腐朽(ふきゅう)により老朽化が急速に進むためです。
しかし近年、度重なる震災のたびに木造建築の強化が検討され、防火材料の普及が進み、建物の高気密化によって木材の腐朽も抑えられるようになってきました。
国でも長年にわたって使用できる住宅の普及を促進するため長期優良住宅認定制度(平成21年施行)を設けています。私は現在の木造技術であれば2世代・3世代にわたって使用できる住宅をつくることも可能であると考えています。もちろん今までのやりかたと比べて手間と時間がかかり、建材も性能の良いものを使用するため建設費用がかさみますが、1坪40万円のものを3回つくるのと、1坪80万円のものを1回つくるのではどちらを選ぶでしょうか?また床下エアコン1台で全館冷暖房をした場合と各部屋にエアコンを1台ずつ設置した場合では、年間の電気代はもちろん買い替えるエアコンの台数によってもその費用の差はご想像できると思います。
2世代・3世代で使用する住宅となると永続・持続可能性を考慮した構造とすることも重要です。建物より寿命の短い設備機器のメンテナンスや、家族の成長や世代交代による部屋の使い方の変化などに簡単に対応できる構造としなければなりません。間取りを簡単に変更できるようにスケルトン・インフィルの手法を取り入れることを検討してみるのもいいかもしれません。
スケルトン・インフィル:建物の柱・梁・床などの構造体(スケルトン)と建物内の間仕切り壁や設備機器など(インフィル)を分離した工法。構造体以外の部分は自由に壊したり追加したりすることができる。主に鉄筋コンクリート造のマンションなどに用いられる設計手法。

【目 次】

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・・・防 音・・・

防音については、室外の音が室内に侵入するのを防ぐ場合と、室内の音が室外に漏れるのを防ぐ場合、が考えられます。ここでは、快適に暮らせる住宅のための性能を考える意味で、室外からの騒音を防ぐ(騒音対策)方法について簡単に説明させていただきます。
木造住宅で外部の騒音を防音するには、通常吸音材と石膏ボードと防音建具を使用します。外壁内の吸音材と室内側の石膏ボード、気密性の良いサッシを使用することで、車の走行による騒音程度であればかなり軽減されます。意外と重要なのはレンジフードや換気扇などの給排気口です。どんなに壁やサッシで防音をしても、壁に穴をあけただけの給排気口では、そこから音がもろに入ってきてしまうので消音機能のある配管材などを使用します。
防音と断熱気密は非常に似ています。吸音材は断熱に用いるグラスウールと同じもので、気密性が重要になる点も断熱対策と共通です。気密性の良い断熱サッシは防音の効果もあります。防音を考えるのであれば高断熱高気密住宅としない手はありません。

【目 次】

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・・・火 災・・・

火災については出火しないことが最も望ましいのですが、居住者の利用状況によるところが大きく、住宅そのものに出火しない性能を持たせるというのは難しいです。
火事になりにくいものとするためには、ガスコンロを使用せずIHヒーターとするとか燃えにくい建材を使用するなどの工夫があります。
万が一火災が発生してしまった場合、いち早く出火したことがわかるように火災報知器の設置が義務付けられています。また、避難をしやすい動線を考えることは有効です。
防火地域や準防火地域では建築基準法で延焼防止についての規定がありますが、防火指定のない地域でも延焼対策をしておくに越したことはありません。隣家で発生した火災による類焼を防止する対策も必要です。

(2018.10.22追記 ここから)
また住宅金融支援機構ではフラット35の仕様として省令準耐火構造住宅の基準を独自に定めていますが、フラット35を使用しない場合でもこの基準に合った構造とすることで保険料を安く済ませることができます。高断熱・高気密住宅では、一部の仕様変更(主に天井の一部)で省令準耐火構造住宅とすることができます。省令準耐火、高断熱・高気密のいずれかを検討される場合、わずかなコスト増でどちらの性能も得ることができます。
(2018.10.22追記 ここまで)     

【目 次】

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・・・持続可能性・・・

苦労して建てた家を末永く使用していくためには、設備機器の交換や建物内外の模様替えなどのメンテナンスが容易にできるようにしておくことが重要です。柱や梁など構造上重要な部分に手を付けずにメンテナンスできるような造りにしておく必要があります。10年20年もたつと生活様式ががらりと変わります。家電製品などでは、テレビ・冷蔵庫・洗濯機などはまるで形が変わっていたり、通信機器の形態が変わったり、生活様式では高齢者を介護できる部屋や子供部屋が必要になったり、趣味の部屋がほしくなったりということがあると思います。
耐震性・気密性が向上している今の、そしてこれからの住宅ではその寿命もますます延びていくと思います。そうした建物を50年・100年と使用し続けていくには、これらの変化に対応できるものとしていかなければなりません。
そのためにも、【耐震】の項でも述べましたが、スケルトン・インフィルの手法を取り入れることを考慮してもいいかもしれません。
スケルトン・インフィル:建物の柱・梁・床などの構造体(スケルトン)と建物内の間仕切り壁や設備機器など(インフィル)を分離した工法。構造体以外の部分は自由に壊したり追加したりすることができる。主に鉄筋コンクリート造のマンションなどに用いられる設計手法。
また、大地震や火災など様々な災害を受けたとしても、そのまま使用できるほどの強度を確保することも検討しなければなりません。

【目 次】